移動販売をする前に

~する前に一覧><>無断転載禁止 2011年12月更新

移動販売をする前に(4)

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移動販売をする前に 4章

 読者の皆さんは、「儲けは投資額で決まる」という箴言を聞いたことがありますでしょうか。もう少し具体的 に言いますと、「年収は投資額とほぼ同額となる」と言われています。
 例えば、300万円の投資で始めた商売ですと、年間の収入が300万円くらいになることですし、800万円の 投資で始めた商売ですと、年間の収入が800万円くらいとなることです。もちろん300万円投資したからとい って必ず300万円儲かるとも限りません。儲けが100万円に満たないこともありますし、それどころか赤字に なることもあるのが脱サラ・独立するということです。
 しかし、少ない投資で大きな収入を望むのが人間の業です。できるなら、300万円の投資で一千万円の収 入を望んだりします。ですが、世の中はそんなに甘くはありません。300万円の投資では収入は300万円、 800万円も同様で、一般的に「年収は投資額が上限となる」と言われています。
 では、この箴言が「正しいか」と問われれば、100%とはいえなくとも基本的な目安としては間違っていない ように思います。

 私が、なにを指摘したいのかおわかりでしょうか…。

 移動販売は店舗を構えて販売するよりもリスクが少ないことを説明してきてきました。「リスクが少ない」と は「投資額が少ない」ことでもあります。もうおわかりでしょう。
 そうです。投資額が少なくて済む移動販売は、それに比例して収入もそれほど多くは望めないことを心得 ておく必要があります。そして、このことは最初に提示した疑問、

 本当に「移動販売」で「脱サラ」「独立」は可能なのだろうか…。

 この答えにも通じるものがあります。では、答えの前に私の移動販売体験記をご紹介しましょう。

 当初、私が始めた移動販売は「ルート販売」でした。今はなくなりました(倒産しました)が、ある企業のルー ト販売を請け負う仕事です。この企業の販売システムは決まったルートをリヤカーに野菜を積んで販売する やり方です。これまでに紹介しましたお豆腐屋さんの八百屋版と考えていただければわかりやすいでしょ う。
 一応私独自の判断で、時間の推移を見ながらルート以外にも不特定多数を対象にした販売方法も試み てみました。つまり、公園など人が集まる場所で立ち止まり声かけをして販売するやり方です。しかし、この 方法はうまくいきませんでした。理由は、ルートを回るだけで時間が足りなくなり、不特定多数販売を試みる 時間が少ししか確保できなかったからです。
 このように書きますと、ルート販売での「売上げがよかった」ように連想するかもしれませんが、そうではあ りません。先ほど述べた「ルートを回るだけで時間が足りなくなった」のが理由ですが、その「足りなくなっ た」のは「移動に要する時間が多かった」からです。具体的にいうなら、訪問するお客様とお客様の距離が 長かったからです。言い方を変えるなら、「ルートが非効率」だったからです。
 1日の売上げは平均2万円前後で、これは客単価が800円だったことを示しています。つまり、客数は25人 前後ということになりますが、朝9時に出発して、午後5時頃に終了していましたが、この客数が限界でした。
 先ほど「ルートが非効率」と指摘しましたので、ルートの効率を高めれば「もっと客数を増やせる」と考えた 人がいるかもしれません。ですが、いくら効率を高めようとも「それほど客数を増やすことはできなかった」と 思います。理由は、対面販売だからです。これは体験してみないと実感を掴めないと思いますが、顧客の 家の前に行き、商品をお客さまが見やすいように広げ並べなおし、接客トークをしながら販売するのが一連 の仕事の流れです。
 この一連の流れを文章にしますと簡単そうですが、実際にやってみますと思いのほか時間がかかります。 スーパーのセルフ販売とは対極の販売方法ですので、ひとりのお客様にかなりの時間を要します。このよう な販売方法から考えますと、「ルートの効率を高めた」としてもこれ以上お客様を増やすのは現実的はあり ません。仮に、必死に早く歩き、ルートを効率的にし、商品の並べ方を手早くし、セールストークを短めにし ても、せいぜい2~3割アップが限界で、間違っても客数が5割以上増やすことはできないと思います。
 それにしても、リヤカーを牽きながら一日中必死に歩いて、お豆腐屋さんのあのアルバイトさんにも負け ていたのはなんとも情けない気分でした。なにしろ、扱い品目がお豆腐屋さんのなん倍もありましたので、 重さが桁違いでした。そのうえ、売上げが負けていたのですから「情けなさ」もわかっていただけると思いま す。
 この企業は「産地直送」と「無農薬野菜」による差別化を図っていましたが、これを実現するためには商品 単価を上げざるを得ず、それはつまりはスーパーなどとの価格競争に負けることを意味します。これが今ひ とつお客様が広がらなかった原因となっていたように思います。
 しかし、この状況はリヤカー販売のお豆腐屋さんと同じです。リヤカー販売のお豆腐屋さんはスーパーよ り高めの価格でも売れていました。それに当てはめるなら、この企業の場合も「お豆腐屋さんと同程度の売 上げ」ができてもおかしくないはずでした。しかし、豆腐業界とは違うことがありました。それはライバル業者 が複数いたことです。同じ差別化を目指していた宅配業者が複数いました。そのうえ、扱い品目が当方より 多くありました。
 敢えてライバル業者との違いを探すならそれは宅配手段です。ライバル業者は自動車で当方はリヤカー でした。これだけが差別化という結果になっていました。このことだけの差別化では、「激励、同情」だけが 購入してくださる理由となり、売上げは低い金額で頭打ちという結果になっていきました。
 この企業の「ルート作り」にも携わりましたが、別段目新しい手法があるわけではなく、住宅街を片っ端か ら軒並みチラシを持って一軒一軒インタフォンを押してお客様を獲得するやり方した。いわゆるローラー作 戦です。ただし、この企業の営業のやり方が雑で拙劣でしたのでお客様を大分逃していたように思います。
 幾つか例を上げますと、スピーカーで大音量の音楽を流しながら地域を回っていましたが、この音楽の音 量の大きさがクレームを受けていました。しかも、クレームを受けたあとも、一応形ばかりの謝罪をしていま したが、その後も「どこ吹く風」といったふうで音量はそのままで営業を続けていました。
 また、お昼休憩のお弁当を食べる場所にも問題がありました。普通は公園など住民に迷惑のかからない 場所でお弁当を食べますが、担当者はローラー作戦をやっている途中で、住宅の門前で勝手にリヤカーを 止め、座り込んでお弁当を広げていました。周りに対する気配り、心配り感性が欠けていました。このような 営業を行っている企業の商品など、誰も購入する気にはならないでしょう。
 もし、幹部にひとりでも「新規開拓の正しい営業のやり方」を熟知している人がいたならもう少し違う展開を していたかもしれません。せっかく無農薬野菜の仕入れ先である農家さんとつながりがありながら、その強 みを活かせる販売システムを構築できていなかったことが残念でした。こうしたことが倒産した原因だと思 います。
 このような企業でしたので、私はほかの移動販売、つまりルート販売ではなく不特定多数を対象とした移 動販売にも挑戦してみることにしました。

 いろいろと調べてみますと、商品を自宅まで届けてくれる問屋さんを見つけました。その問屋さんと商品を 卸してもらう契約をし、それをリヤカーで販売することにしました。その問屋さんの利点は商品を自宅まで配 達してくれることでしたが、難点は扱う商品が1種類に限られていたことです。ですから、野菜販売のように 複数種類の商品を扱うことはできませんでした。結局、納品してもらえたのは「単品で果物」ということになり ました。卸値もそれほど安くはありませんでしたが、個人が仕入れるのですから致し方ないことと納得しまし た。
 実は、野菜でのルート販売時に果物を訪問販売している業者を見かけてはいました。ですから、果物を販 売する業界の噂は耳にしていました。端的に言いますと、悪い噂です。「かなり強引に押し売りのように販 売している」「高齢者を狙って詐欺紛いに販売している」「品質の悪い商品を高額で販売している」など芳しく ない評判が漏れ伝わってきていました。
 ですが、逆に言うと「誠実に、高品質の」果物を、「売り逃げ」ではなく「定期的」に販売するやり方なら、「そ れなりに売上げが見込める」と考えました。お豆腐屋さんのリヤカー販売のアルバイトさんと同水準とまで はいかなくとも、それに近い売上げはできるような気がしていました。
 商品の仕入れの段取りは決まりましたので、あとは販売場所(ポイント)です。場所(ポイント)はとても重要 です。これまでにいろいろなテキストでなんども書いていますように、販売で最も大切なのは立地環境です。 売れない場所でいくら頑張ろうとも絶対に売れません。私は販売場所(ポイント)に適している場所を探すこ とにしました。
 しかし、その前に決めておかなければいけないことがあります。それは、販売地域の確定です。ただ闇雲 に計画性もなく手当たり次第に販売場所(ポイント)を決めても非効率な営業活動になるだけです。1日の営 業活動を無駄な徒労に終わらせないためには、販売地域の選定は重要な要因でした。

4章 おわり

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