移動販売をする前に

~する前に一覧><脱サラをする前に>無断転載禁止 2011年12月更新

移動販売をする前に(2)

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移動販売をする前に 2 章

 正確な日にちは覚えていませんが、店舗の契約更新期を迎える半年くらい前から、リヤカーでお豆腐を 販売しているお兄さんが仕事の合間に立ち寄るようになっていました。決まって毎週日曜の夜7時頃にやっ て来てコロッケを食べながらしばしの間、私との会話を楽しんでいました。
 ほかの地域ではわかりませんが、東京近郊では7~8年ほど前からリヤカーで豆腐を販売する業者が伸 張していました。沿線の各駅毎に事務所兼倉庫を作り、そこを拠点にして豆腐やそれに付随する商品をリ ヤカーに積み込み、アルバイトさんが一日売り歩くシステムです。アルバイトさんは学生さんやフリーター、 役者の卵さんなど若い人が多い人員構成になっていました。
 私と親しくなったお兄さんはアルバイトの学生さんでした。そのお兄さんといろいろなことを話すうちにリヤ カー販売のシステムや移動販売について興味を持つようになりました。
 店舗を構えることは必然と家賃や水道光熱費、また更新費用といった様々なコストが発生することです。 それに対して移動販売はそうしたコストが発生しません。この差を考えるなら販売という職種には店舗販売 よりも移動販売のほうが適しているのではないか…、と考えるようになりました。
 利益を出すには固定費は少なければ少ないほど有利であるのは間違いありません。しかも、最も大きな メリットは場所を自由に移動できることです。販売業の肝は立地環境です。その立地を自由に動けるので すから、これほど販売業にとって魅力的な要素はありません。売れなければ売れる場所に移動することが できるのですから、これほどリスクの少ない理想的な販売方法はありません。最も理想的な販売方法は移 動販売かもしれない…。そんな考えが強くなってきました。

 前章で、昔から存在する移動販売業者として「石焼芋屋さん」や「さおだけ屋さん」を取り上げました。この 章の冒頭では、新しい移動販売業者として「豆腐屋さん」を書きました。ですが、実は豆腐屋さんは昔から 存在する移動販売業者でもあります。ですから、豆腐屋さんに関していうなら、決して「新しい移動販売業 者」とはいえません。自転車もしくは原付バイクに乗ってラッパを吹きながら豆腐を売って回るおじさんを見 た人は多いでしょう。
 では、この新旧2つの移動販売の違いはなにかというと、それは移動手段です。昔から存在する豆腐屋さ んが自転車またはバイクで回っているのに対して、新しい豆腐屋さんはリヤカーです。また、あとひとつの 大きな違いは店舗の有無です。そしてそれはそのまま事業規模または売上げ規模にもつながります。
 前者が個人商店である店舗を中心にした一定の地域を店主が売り回っているのに対して、後者は法人と なっていることが多く、幾つも拠点を作りそこを中心に幾人ものアルバイトさんが売り回るシステムです。で すから、後者のほうが事業規模そして売上げ規模が大きくなって当然です。
 このように2つを比べてみますと、店舗を構えている豆腐屋さんの移動販売は、あくまで店舗を中心に販 売していますので、移動販売というよりも「出張販売」もしくは「出前販売」という表現のほうが相応しいように 思います。

 先ほども書きましたように、新しい移動販売の豆腐屋さんは店舗ではなく拠点を作っています。店舗では ありませんから必要最低限の内外装で済み、当然コストは低くなります。そして、私が学生アルバイトさんと の会話で驚いたのが、その売上げでした。なんと2万円から3万円を売っていました。販売の素人であるア ルバイトの学生さんが一日売り回って2~3万円は立派な数字です。当然、売上げに個人差があるのは想 像できますが、それでもこの数字には驚きました。
 読者の皆さんはこの数字の信憑性にどのような感想を持つでしょう。中には、疑問を抱く人がいてもおか しくはありません。実は、聞いた瞬間は私も同感でした。しかし、この数字が正しいと思える裏づけがアルバ イトさんの話から聞くことができました。アルバイトさんの報酬は時給制という固定給でした。もし、歩合給で したら売上げの信憑性が薄らぎますが、固定給で報酬が支払われているのですから信頼できる数字です。
 この企業が学生さんに支払う給料から逆算しますと、上記の売上げがなければ赤字になります。もちろ ん、アルバイトさんたちが上げる売上げが人件費を賄うだけの金額になっていないなら、それは赤字を意 味しますからこの企業は存続することができません。このことから察しますと、やはり上記の売上げは正し い数字と判断して間違いないと思います。
 私がコロッケチェーンに加盟していた頃、廃業した加盟店が多数ありました。連絡を取り合っていた加盟 店主からの情報によりますと、廃業した店の平均的売上げは1万円前後のようでした。立地条件が悪けれ ば売上げというものはいくらでも落ち込みます。こうしたことから考えますと、なにもわざわざ店舗を構える 必然性などありません。コロッケの移動販売は現実性がないとしても扱う品目さえ間違えなければ「移動販 売」という販売方法でも充分に売上げは上げられそうな感触を持ちました。
 このように売上げに関しては、一見すると大して売れないように見える移動販売が、実は店舗販売と比べ てそれほど遜色ないことがわかりました。そして、コストの面においては移動販売が圧倒的に有利であるこ とも事実です。これらのことから総合的に判断しますと、移動販売のほうが店舗販売よりも「成功する確率 が高くなる」と考えるのは私だけではないでしょう。
 前章で、店舗を構えた人たちが持つ次の定説を紹介しました。
「移動販売は店舗販売のひとつ前の段階である」
 しかし、考証を進めるうちにこの定説が覆されたことになります。利益がきちんと出るならなにも店舗を構 えることを目指す必要もありません。移動販売で儲けが出ているなら、そのやり方でせっかく貯めた儲けを 出店費用に費やすことは無意味です。店舗を構えたからと言って必ず成功するとは限りません。せっかく儲 けが出ている移動販売をやめて店舗販売というリスクを負う必然性は全くありません。
 中には、移動販売と店舗販売を併用することを考える人もいるかもしれません。しかし、出店に際するリ スクは同じようにありますし、販売チャンネルが2つになることは販売員も増やす必要に迫られることですか ら、リスクが増えることを意味します。このように考えますと、移動販売で利益が出ているなら、なにかほか に特別な目的があるのでなければ店舗販売との併用を考えるのはナンセンスです。売上げ増大を目指す なら「2台目を出す」など移動販売で規模を大きくする方法をとるのが賢明な考え方です。

 さて、ここまでお読みになって「移動販売は店舗販売へ進化するための通過点に過ぎない」という発想が 過っていることを理解していただけたと思います。これまでに書きましたように、移動販売は店舗販売に比 べて世間的または社会的なモノサシでは見劣りしますが、リスクが少なくコストがかからない構造になってい ますから成功する確率が高いシステムです。見栄えは悪いですが、決して間違った販売方法ではありませ ん。ですが、ここまででは、前章に書きました疑問の答えは出ていません。

 本当に「移動販売」で「脱サラ」「独立」は可能なのか…。

 これまで移動販売について、いろいろと考察してきました。移動販売には好印象、悪印象がある業種があ ること、そして好印象を持たれている業種としてパン屋さんやお弁当屋さんや豆腐屋さんなどを挙げまし た。ほかにも移動販売に進出している業種はいろいろありますが、それらの中で住民から好印象を持たれ ている、もしくは与えている業種には共通点があります。
 それは食料品関連であることです。脱サラ・独立を果たすからには住民から好印象を持たれている業種 であることは必要最低条件です。ですから、ここから先は食料品関連を扱うことを前提に話を進めたいと思 います。現実問題として、脱サラ・独立を果たす要件を満たしている業種は食料品関連が多くなっていま す。

 では、移動販売という方法がどのように行われているかを、お豆腐屋さんを例にしてご説明したいと思い ます。
 まず、現在、お豆腐屋さんがどのような状況になっているかを見てみましょう。私が保険代理店時代、契 約者さんの中にお豆腐屋さんがいました。年齢は60代半ばで人当たりがよく柔和なご主人でした。
 最初の頃は大きな契約をいただいておりましたが、世の中の流れには逆らえず段々と景気が悪くなって いるようでした。結局最後は、保険料が負担になり保険をやめてしまったのですが、ご主人の話を聞いてい ますと、近年の経済状況の縮図が見えるようでした。
 どこの地域にも地元のお豆腐屋さんという商店があります。そして、概して言うなら、それら個人商店のお 豆腐屋さんはどこも経営的に苦しい状況に追い込まれています。豆腐業界に限らずどの業界でも、個人商 店が廃れる理由の多くはスーパーなど大規模小売店の進出です。スーパーなどが低価格で攻めてきます から、それに太刀打ちするのは並大抵ではありません。私の惣菜店もそうでしたが、お豆腐屋さんも同様 のようでした。
 中には、地元のお豆腐屋さんが進出してきたスーパーに卸していることもあります。私の契約者であった お豆腐屋さんも卸していました。しかし、スーパーからの卸値の低価格要求は凄まじいようで「ほとんど利益 が出ない」と会うたびにこぼしていました。
 数年後、その店が廃業したと風の便りに聞きましたが、現在豆腐業界はこのような状況になっています。 この状況はかつてコンビニに席巻されたパパママストアと重なって見えます。
 このような豆腐業界で移動販売という新しい販売方法をとる業者が現れたわけですが、商品単価をみま すと「高め」です。スーパーと比べますと「格段の高さ」と言ってもいいでしょう。それでも、先ほど書きました ように売れています。それは「差別化」が成功しているからです。
 差別化は「商品」と「販売方法」の両方においてです。そして、マスコミを上手に利用しています。これらが 相まって売上げが伸びています。このときの「売上げ」とは企業全体のことであり、各アルバイトが上げる売 上げではありません。たぶん、アルバイトさんひとりひとりの売上げは今の状態が限界のはずです。これ以 上、各アルバイトさんの売上げを上げるには客単価を上げるしか方法はないでしょう。移動販売の特質上、 そして販売員がプロでなくアルバイトであるという点からしますと、これ以上客数を増やすのは難しいと思わ れます。
 私が移動販売をしていたときにも、リヤカーのお豆腐屋さんの幾人かとお話しする機会がありました。彼 ら彼女らの話を総合しますと、売上げが上がる余地がないような印象を受けました。その企業の最近の動 向をネットで見ますと、拠点をどんどん増やしていますが、それは各アルバイトの売上げが頭打ちであるこ との裏返しであるように私には思えました。

2章 おわり

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