移動販売をする前に

~する前に一覧><脱サラをする前に>無断転載禁止 2011年12月更新

移動販売をする前に(5)

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移動販売をする前に 5 章

 前章で、販売場所(ポイント)の重要性とともに販売地域の重要性を指摘しましたが、その理由は私の販 売手段がリヤカーだったことも関係があります。
 リヤカー販売が一番コストがかからず融通がききますので効率的です。ですが、リヤカー販売の難点はリ ヤカーを販売場所まで運ぶことでした。もちろん、リヤカーは車に積んで運ぶつもりでしたが、あまり遠くて はガソリン代もバカになりません。そうしたことを考慮して、販売地域は自宅から車で30分以内の範囲と決 めました。
 さて、販売地域も決めましたのであとは販売場所を探すことになります。しかし、ここでまたひとつ問題が ありました。それは車の駐車場の確保です。理想としては、販売場所でリヤカーを降ろして車を自宅の駐車 場まで戻すことです。しかし、これは常識的に考えて現実的ではありません。私はコイン駐車場を利用する ことにしました。
 コイン駐車場を利用するようになってから知ったことですが、最近のコイン駐車場は一昔前と比べて格段 に安くなっています。一昔前と一番違っているのは料金に上限があることです。
 一昔前ですと、「20分で100円」とした場合1時間利用しますと300円になります。それで12時間も停めてい ますと3,600円にもなってしまいます。24時間ですと7,200円です。これでは利用するのに躊躇して当然です。
 しかし、最近はほとんどのコイン駐車場で上限が定められています。例えば、「1日最大1,000円」と書かれ ている場合、12時間停めても24時間停めても1,000円で済むことを意味しています。一昔前と比べますと、 格段に安くなっていることが理解していただけると思います。
 このように以前より格段に安くなっているとはいえ、それがコストとなることには変わりありません。仮に「1 日最大1,000円」としても、1ヶ月に26日営業しますと1,000円×26日で26,000円のコストです。これはある意 味、26,000円の家賃の店舗を構えていることと同じです。コイン駐車場は以前に比べると安くはなっている のですが、それでも26,000円の出費は大きな負担となります。このことは移動販売の大きな問題点です。
 実は、これまでに書きました販売場所までのガソリン代や駐車場代は、私が移動販売から撤退する決断 を下した理由のほぼ半分を占めています。これ以外にも撤退理由はありますが、そのことについては後述 するとして、次は販売場所の決め方について書きます。

 私が扱う商品が単品であることは先に述べました。このようなケースで一番気をつけなければいけないの は「お客様に飽きられる」ことです。単品ですから、ほかに選びようがありません。ですから、「お客様に飽き られる確率」はどうしても高くなります。そこで、誰でもが考えるように、「販売日の間隔を開ける」ことにしま した。
 では、どれくらい日にちを開ければよいのでしょう。いろいろ考えた末、私は1週間の間隔を開けることに しました。理由は、扱う商品を毎回変えることで「飽きられる確率」を抑えることが可能だと考えたからです。 また、いつも同じ人ばかりが通りがかるわけではないはずです。私は、1週間に1度の頻度で「飽きられる」 確率は格段に低くなると予想しました。
 さて、いよいよ販売場所を探す段になりましたが、私は、移動販売をするにあたり、自らに課したルール があります。それは、「同業者の店舗の近くでは販売しない」ということです。もちろん、同業者とは果物を扱 うお店のことを指します。つまり、八百屋さんや青果店の近くではリヤカーを停めて「販売しない」ルールを 決めました。
 私は、店舗を構えていたときに必死の思いで家賃を払っていました。もし、そのときに同じ商品を扱う移動 販売業者が店の近くで営業を始めたならとても不快な気持ちになったでしょう。店舗を構え家賃を払いなが らの販売業の経験があるだけに、店舗を構えた同業者の気持ちに敏感でした。私は、店舗販売同業者の 気持ちを逆なでするような行為をすることは絶対にできませんでした。家賃という固定費を払わずに商売を するのですから、周囲に対する配慮は絶対に外せない要件でした。
 このような自らに課したルールに沿いながら販売場所を探すとなると、やはり簡単に見つかるものではあ りません。簡単に言ってしまうなら、2等地と言われる立地環境の場所にならざるを得ませんでした。読者の 中には、この時点で当初の発想から逸脱しているのがおわかりになった方もいるでしょう。
 私が移動販売に感じた魅力は「移動できる」ことでした。店舗を構えていたなら、一度決まった販売場所を 移動させることは容易にはいきません。こうした店舗であるがゆえの弱点から逃れるために移動販売に可 能性を見出したのでした。ですが、実際にやってみますと想像していたのとは違い、店舗を構えることで生 じる弱点を移動販売では克服することはできませんでした。それは移動販売の特質に所以がありました。
 話は逆説的になりますが、移動販売だからこそ立地環境の悪い場所しか選べませんでした。「選べない」 というよりも「残っていない」という表現のほうが相応しいかもしれません。もう少しわかりやすく説明します と、立地条件のいい場所はもう既に店舗が立地していたのでした。よくよく考えてみますと、あとからリヤカ ーでのこのこやってきて販売場所に最適な場所があろうはずがありません。そのような販売場所(ポイント) に適している場所はさっさと店舗ができていて当然です。それでなくては、家賃が取れる物件があるはずが ありません。
 あとひとつの大きな問題点は近隣住民もしくは通行人たちからのクレームでした。これは立地環境の良し 悪しとは無関係に私を悩ませた問題点でした。どこの販売場所(ポイント)であろうと、販売することが目的の 場所(ポイント)ですので、必ず通行人がいる必要があります。つまり、道路が販売場所ということになりま す。
 道路で販売行為をすることは住民や通行人にとっては迷惑行為でしかありません。悔しい思いはあります が、これは事実です。
 私の経験をお話します。
 移動販売を始めて3週間ほど過ぎた頃、それほど近隣に迷惑をかけそうもなく、しかもそれなりに売上げ が上げられる場所を私は見つけました。それ以来、その場所を自分のゴールデンポイントして活用していま した。ゴールデンポイントとは「必ず売上げが見込める場所」という意味です。もちろん、あまり頻繁に活用 していては周りに迷惑ですので、そこに気を配りながら適度な頻度を保っていました。
 しかし、ある日、中年の男性が近づいて来ていかにもニゲニゲしいといった表情で言葉を投げつけてきま した。
「ここは売っちゃいけない場所だろ! 警察に通報するぞ!」
 私はすぐに移動しましたが、この男性の言葉は私を落ち込ませました。それまでにも住民や通行人から 注意されることはありましたが、ここまで嫌悪感を前面に出した言葉遣いをされたことはありませんでした。 悔しいですが、周りからのクレームには逃げるしか方法がないのが移動販売です。移動販売とクレームは セットと考えておいて間違いありません。
 先ほど、中年男性に「売っちゃいけない…」と言われた話を紹介しましたが、この男性の文句は間違って はいません。悲しいかな、また悔しいことに、路上で販売する行為は「違法」です。読者の中には「違法」と 聞いて、驚いた方がいるかもしれません。実は、移動販売は正式には違法行為にあたります。
 もっと正確に言うなら、「立ち止まって販売する行為」が違法となります。路上で販売する際は、必ず「動い ている」ことが必要要件です。地域によって若干の違いはあるかもしれませんが、たぶんほとんどの地域で 「路上で停まって販売することは違法」になります。ですから、お豆腐屋さんはリヤカーを牽いて歩きながら 販売しています。もし、立ち止まって販売するならそれは明らかに違法行為になります。しかし、この企業は アルバイトさんたちに営業時間の最後は「駅前などで立ち止まって販売する」ことを奨励しているようにも見 えるのが実態ですが…。

 もう結論を出してよいでしょう。移動販売で独立することは不可能です。なにしろ道路上で販売すること自 体が違法なのですから、独立うんぬん以前の問題です。安心して思いっきり販売することができないのです から、売上げうんぬん以前の問題です。
 これで一応、結論としたいところですが、こんな疑問を持った読者の声が聞こえてきそうです。
「リヤカーでなく、自動車での移動販売はどうなのか?」
 一般的に、移動販売でよく目にするのはリヤカーよりも自動車のほうが多いですから、このような疑問が 浮かんでも不思議ではありません。
 しかし、単刀直入に言いますと、「リヤカーと同じ」です。
 駅のロータリーで軽ワゴン車を停めておいしいクレープを販売している業者も、香ばしいパンを販売してい る業者も違法です。どんなにファンがつき、人気があろうと違法であることには変わりはありません。そし て、違法状態で販売を続けることは不可能です。これ以上述べる必要もないでしょう。

 結論が出たところで終わりとしたいところですが、なんとなく終わることに惜しみがありますので、あとちょ っと続けます。
 では、ここで最後の可能性について考えてみましょう。

 適法で移動販売はあり得るか?

 …あり得ます。リヤカーにしろ自動車にしろ、お金を払って「停まって販売する場所」を確保できるなら移 動販売はあり得ます。例えば、駐車場の一角をお金を払って借りるなどしてそこを利用するなら適法で販売 できます。しかし、それではもう移動販売とは呼べない形式になっています。そうです、「そもそも」という接 続語が頭に浮かびます。そして、その場所が「販売に適しているか」という販売の究極の難問にぶつかるこ とになります。
 面白いですね。結局は、「販売業は立地環境が成功の是非を決定する」という販売業の原点に立ち戻っ てしまいました。これでは店舗販売と変わりなく移動販売の意味がありません。「適法で移動販売」とは、ま さしく店舗を構えることです。その意味で言いますと、「適法で移動販売」は「あり得ない」といえるかもしれま せん。

 さて、本当に最後です。

 「移動販売」で「脱サラ」「独立」は可能なのだろうか…。

 私が冒頭で提示した疑問に私なりの答えが出ました。

 答えは「NO」です。

 中には、「実験」という意味で移動販売を考える人もいるかもしれません。ですが、移動販売では実験にな りません。なぜなら、「販売業は立地環境で決まる」からです。その立地が「確定していない」のが移動販売 ですから、実験の意味をなさないのは明らかです。強いて、移動販売の利点を考えるとするなら、「練習」と いう意味合いの場合です。「練習」という意味では移動販売は役に立つように思います。なにしろ、冷たい視 線を浴び、クレームを言われる確率が高いですから、この経験は独立・脱サラに必ずや役に立ちます。


 それでは最後になりますが、本テキストが皆さんの参考になれば幸いです。
 最後までお読みくださいましてありがとうございました

5章おわり

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