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~する前に一覧><脱サラをする前に>    *リンクフリー 全頁無断転載禁止 2011年12月更新

転職をする前に(3)

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<第3章>

 転職にもいろいろなパターンがありますが、その中でも「スカウトされて」の転職は会社員として誉 あるパターンです。「スカウトされた」と言いますと、言葉の響きもいいですし、世間的にも評価される 転職です。ですが、「スカウトされる」のは少なくとも30才を越えているのが普通です。「スカウトされ る」には「スカウトされる」に値する実績がなければなりません。20代のうちにそれだけの実績を残し ている人はほんの一握りの人たちです。能力もさることながら、能力を発揮できる舞台も必要です。 例えば、大企業かもしくは名の知れた企業に勤め扱う金額も大きく、マスコミに、少なくとも業界紙な どに取り上げられる仕事でなければなりません。間違っても、普通の一般的な職場にいる20代がス カウトされることはありません。
 今書きました「スカウト」は、いわゆる「スカウトを業務とする企業」(通称:人材紹介会社)などが扱 うスカウトを指しました。このような人材紹介会社などが行うスカウトは一握りの人たちだけの話です が、一般的な職場でもスカウトはあります。例えば、取引先企業から普段の仕事ぶりを認められて スカウトされることはよく聞く話です。こういったケースのスカウトは人材紹介会社などが行うスカウト に比べますとスケールは小さいですが、理想に近い転職といえます。取引先ですから、仕事の中身 もわかっていますし、会社の実状もある程度見知っている中での転職だからです。
 このように理想に近い転職ですが、注意を要することもあります。それは「外から見る」のと「内か ら見る」のとでは実態が違っていることがあるからです。同じ人間が、取引先として接するときと同僚 または上司として接するときとでは全く違った印象になることはよくあることです。
 仮に、スカウトの話がきたときに、在籍している会社に対して不満を感じていたときなどは余計に 取引先の会社がよく見えたりします。昔から言われている「隣の芝生は青い」の心境です。しかし、 そのような心境のときに決断するのは禁物です。人生の一大転機になる転職ですから、決断すると きは平常心のときに行うべきです。間違っても感情が高まっているときに決断してはいけません。
 先に、「労働環境を理由に転職を考えるのは好ましくない」と書きました。「労働環境」は同じ業界 ではほとんど大差がないからですが、中には極端に悪い企業もあります。そのような企業の場合は 転職を考えるのも悪いことではありません。20代の若い間は情報が多いようでいて実際は少ない人 も少なからずいます。そうした若い人の初心(ウブ)な状況を利用して「労働環境が悪いのを当然」と 洗脳する企業もあります。
 以前、話す機会があった新社会人さんは不動産会社に勤めている男性でした。彼は社会人となっ てから休日が1ヶ月に2~3日しかないそうです。しかも、就業時間も長時間縛られているようでした。 そして、先輩からは「それが当たり前」と聞かされていました。彼が勤める会社には「休日が取れず 長時間仕事に縛られることが当然」とする雰囲気があるようでした。私は冗談交じりに言いました。
「そんな会社、辞めちゃえ」
 企業が従業員に休日を与えるのは当然の義務です。ほとんどの企業において労働環境は大差あ りませんが、極端に悪い企業もあるのは事実です。しかも、若い人の純真な気持ちを利用して洗脳 しようという姿勢は、企業としての社会的責任を放棄しているように思えます。もし、このような企業 に勤めているなら転職を考えるのも悪いことではありません。
 このような企業は必ずと言っていいほど経営幹部に問題があります。経営者として確たる認識が あるならば、従業員の労働環境をきちんと整えているのは当然の対応です。それをしていないのな ら経営がきちんと行われていないことを表しています。労働環境に限らず、経営幹部に問題がある のならやはり転職を考えるのは当然です。中高年ならともかく若い人であれば、転職先はいくらでも あります。
 それでも、やはりある程度の期間は勤めるべきです。それは転職に際して「短期間での転職」が 当人にとって不利になることもありますが、問題のある企業と言えども、せっかく一度は勤めたので すから「なにかしら得てから」退職したほうが仕事人生を有効に送ることになります。経営に関して 問題がある企業で勤めるのも貴重な経験です。「災いは福に転じさせた」ほうが得です。
 経営に問題があるとき、多くの場合その企業の業績は悪化していきます。また、問題はなくとも、 経営方針の過ちにより業績が悪化し倒産寸前の状況ということもあります。そのような状況のとき に誰もが一度は「転職」の二文字が頭をよぎります。
 昔から、倒産寸前の企業を「沈みそうな舟」に例えることがあります。沈みそうな船に乗っている場 合、誰もが考えます。「脱出するか」それとも「留まって修理に挑むか」。「修理に挑む」ことはまかり 間違えば、「最後を見届ける」ことにもなります。
 ある企業のお話を紹介しましょう。
 ある玩具メーカーの創業者には息子が二人いました。創業者はたたき上げの経営者で、その鋭 い感性で業績を伸ばしてきました。そして、長男に社長の座を譲り渡したのですが、長男は米国で 勉強してきた経験を活かし、それまでのやり方を一新しました。この時点で従業員は戸惑いがあっ たはずです。人間は誰しも保守的な生き物ですから、それまでと違うやり方に違和感を持ちます。 違和感どころか反発心さえ持つ人もいます。中には、転職した人もいました。
 長男の経営方針は米国流でしたが、日本の玩具メーカーには適していなかったようで、その後、 業績が落ちてくるようになり、倒産も視野に入るほど悪化しました。さすがに、この時期になりなすと 従業員も動揺します。会社のリストラ策に乗るかのように退職する人はさらに増えました。この時期 に会社で部長職にあった社員は、転職を「すべきかどうか」迷っていると、妻にこう言われます。
「今の時期に転職するのは卑怯よ」
 この社員は妻のこの一言で転職を思いとどまり、最後まで見届ける決意をしました。しばらくする と、社長が業績悪化の責任をとって退任し、創業者が短期間復帰したあとに次男が社長になりまし た。実は、次男は兄である社長の米国流経営方針に反発して先に退職していたのでした。つまり、 次男は出もどりになるわけです。次男は正しくは転職ではありませんでした。自分で会社を起業す る道を選んでいたからです。そのときに会社の元部下も幾人かついて行っています。この部下につ いては転職になりますが、起業した会社の経営は順調に成長をしていました。それを見込んでの創 業者の要請でした。
 次男が社長に登用されてから、容易ではありませんでしたが結果的に会社の業績はV字回復を 遂げました。その間に、次男同様、一度転職した人が戻ってきた例も幾つかありました。
 このお話を読んでどのような感想を持ったでしょう。この話には経営の話もさることながら、会社員 が転職をどのようなときに決めるべきかを示唆する要因が幾つか入っています。
 長男が社長に就任したときに新しい経営方針に反発して転職した人。そして業績が悪化し倒産が 見えてきたときに将来を不安視して転職した人。長男が退陣を余儀なくされたときに長男の側近で あるがゆえに転職した人。そして次男が社長に登用されたときに転職した人もいるでしょう。
 長男が社長に就任したあとその経営方針に反発して転職した人は、将来長男が退任するなどと は考えていなかったでしょう。業績が悪化し倒産しそうなときに転職した人は、その後業績が回復す るとは思っていなかったでしょう。次男が社長に登用されたときに転職した人は、長男を慕っていた ことを後悔したでしょう。
 実は、この話には後日談があります。次男がその素晴らしい経営感覚で業績を回復させたあと、 この企業は再び成長が低迷してしまいます。そして、検討の末、社長である次男は同業者と合併す る道を選択しました。会社員にとって合併が転職を考えるきっかけになるのは間違いありません。
 このように、会社員を取り巻く状況は次々に変化するものです。しかも、その変化は長期間にゆっ くりと起こるのではなく、数年という短期間に起こります。そして、こうした変化を予想することは誰に もできません。ですから、転職を考えるときは、自分を取り巻く環境や状況に合わせて考えるのでは なく、自分自身の中においてのみ考えるのが正しい転職の考え方です。転職後に、元いた会社の 業績が上向こうが落ち込もうが、元いた会社の人事がどう変わろうが、また転職先の人間関係がど うなっていようが、転職先の業績がどのようになろうが、そうした周りの状況に振りまわされるので はなく、自分自身のうちのおいてのみ転職の是非を考えるべきです。
 自分の周りを取り巻く環境や状況がどのように変化をしようが、転職の理由が自分自身のうちに あるなら、環境や状況がどう変わろうともなんの後悔もしないでしょう。大切なのは、働いているとき に、自分自身が充実感を得られるかどうかです。

参考文献:「タカラ」の山―老舗玩具メーカー復活の軌跡  (著)竹森 健太郎(日経BP企画)

第3章おわり。

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