ビジネス書を読む前に

~する前に一覧><脱サラをする前に*リンクフリー 全頁無断転載禁止 2011年12月更新

ビジネス書を読む前に(2)

はじめに> <自己啓発書> <経営学書> <自伝書

<自己啓発書>

 一般的にビジネス書は次のように分類されます。

 * 自己啓発書
 * 経営学書
 * 自伝書

 書店に行きますと、お店の規模によりその分類の方法も千差万別ですが、大まかには、上記のような分 類でよかろうと思います。それでは、それぞれにおいて「ホンモノ書」と「モノマネ書」の違いについて述べて いきます。

 「自己啓発書」は、ビジネスマンとしての能力を高めるための本です。仕事をするうえで個人の能力は高 いほうがいいに決まっています。普通、新ビジネスマンおよびビジネスの経験が浅い人は能力が高くなくて 当たり前です。最初から能力の高い人はほとんどいません。そうしたビジネスマンの成長を促すためのツー ルとして自己啓発書があります。
 能力を高める必要があるのは経験が浅いビジネスマンだけに限りません。ビジネスマンとしてある程度年 数が経った中堅の人でも同様です。例えば、役職が上がることによって会社から求められる仕事の質やレ ベルは変わってきます。また、それまでと違う業種に配置転換されることもあります。やはり、ビジネスマン として経験を積んだにしても、そのときどきで自己啓発に取り組むのはビジネスマンとして当然の責務で す。
 自己啓発書は個人の能力を高めるためのものですが、その最初に必要なのは「心構え」でしょう。どんな に役に立つ本を読もうが、それを受け入れるための「心構え」が備わっていなければ、いくら自己の能力を 高める本を読もうが、本の内容が読んだ人の血となり肉となることはありません。自己啓発書で最初に読ま なければいけないのは「心構え」について説いている本です。
 その「心構え」について説いている本。この本こそ、実は最も「モノマネ書」が多い部類の本です。前章に おいて、「モノマネ書」には2通りの種類がある、と書きました。その1つとして「古典的なビジネス書を参考に して」と説明しましたが、ビジネスに対する「心構え」ほど昔から変わらないものはありません。それは「心構 え」がビジネスの基本中の基本だからです。しかし、「心構え」の基本が昔から変わらなくとも、実際は、時 代は変化しています。ですから、昔と現在の間には必ずギャップが生じます。そのギャップが「モノマネ書」 を生み出す隙となっています。わかりやすく言いますと、古典的内容を現代風にアレンジできる隙が多く出 てくることです。その隙間を狙って「モノマネ書」は手を変え品を変え出版されています。
 古典的指南書の例を上げるなら、孫子の論語や諸葛孔明の心構え、西洋で挙げるならマキャベルの戦 術論などといったように例を挙げるなら枚挙に暇がありません。日本人で上げるなら、古くは日本の産業の 生みの親といえる渋沢栄一氏や戦後では経営の神様と言われている松下幸之助氏などの本もあります。 これらの本を現代風にアレンジした「ビジネス書」が新たに出版されているのがビジネス書業界の特徴で す。
 実は、このような「モノマネ書」が出版される状況は今に限ったことではありません。私が社会人になった 約30年前でも、現在と同じ光景が出版界では繰り広げられていました。つまり、古典的指南書を30年前当 時の時代に合わせてアレンジされたビジネス書が出版されていたことになります。こうした実態を眺めてい ますと、古典的指南書は約10年ごとに時代時代に合わせてアレンジされなおして出版されているように見え ます。
 このように、ビジネスの基本である「仕事に対する心構え」を説いた本はそれぞれの時代において出版さ れています。また、書店もそうした出版者の姿勢に合わせて対応しています。具体的には、書店は新たに 出版された本を読者の目につきやすい場所に陳列するという対応を取っています。このような出版界の流 れの中では、結果的に読者は、古典的指南書を参考にした「モノマネ書」しか目に触れることできない環境 に置かれてしまっています。そうした状況は、本来最も価値のあるはずの、且つ最も意義があるはずの古 典的指南書に読者が出会う確率が低くなることにつながります。
 先の文章において、書店で「目につきやすい場所」と書きました。実は、この場所の確保はとても大きな意 味を持っています。
 皆さんは、スーパーやコンビニなどで買い物をしていると思いますが、メーカーにおいて売上げを作る最も 重要な要因は「売り場の確保」です。どんなに優れた価値がある商品であろうとも、その商品が消費者の目 に触れるところに置いていなければ決して売上げを作ることはできません。ですから、メーカーはスーパー やコンビニにおいて「いかにして売り場を確保するか」に相当な労力を注ぎます。商品は消費者の目に触れ て初めてその価値が生じるものです。
 同じことが本およびビジネス書においてもいえます。本が売れるには書店の平台や棚に並べられ読者の 目に触れることが最低条件です。しかし、膨大な数の本が出版される現代では、書店で読者の目に触れる 場所に置いてもらうには限界があります。このような状況の書店では、出版社が力を入れる本しか平台や 棚に並べられることはありません。
 こうしたことからわかるように、多くの本が出版される書店では、読者が古典的指南書に接する機会が極 端に少なくなっています。

 さて、自己啓発書の基本中の基本が「心構え」であることは述べました。しかし、書店に並んでいる自己啓 発書は「心構え」の本だけではありません。そのほかに、「営業トーク術」や「自己アピール術」、または「手 帳の書き方」など例を挙げたら切りがありません。これらの本は一般に「ノウハウ書」と言われますが、これ らの中でいつの時代も必ず登場するのが「時間菅理術」です。
 もちろん時間を管理するのはとても大切です。1日の時間は誰しも同じで24時間しかありません。その限 られた時間をできるだけ有効に使うことを考えるのはビジネスマンの初歩的なスキルです。そのためには 時間を効率的に「菅理」することが重要になるわけで、ですから、昔から「時間菅理術」はビジネスマンの必 携の術でした。
 一口に時間菅理術といっても、その時代時代によりその内容は異なっています。理由は、仕事を取り巻く 環境が変化していくからです。
 例えば、事務作業においては、1960年代ですとまだソロバンが主流でしたので計算するにおいても、いか にしてソロバンを使いこなして事務作業を素早く完了させるかが課題でした。しかし、現在では、ソロバンな ど使って作業をしていては笑われるだけです。卓上計算機を使いこなすだけでも同様で、パソコンを使いこ なしながら「時間短縮」を図るのが当然の主流となっています。
 時間菅理術は事務作業だけに効果を発揮するのではありません。仕事の流れ全体においても同様で す。仕事の全体の流れを菅理することによって、こなせる仕事の量も増えますし、また仕事の質も高めるこ とができます。どんなに時代が変わろうとも時間菅理術は最も大切なノウハウと言えます。
 私が20代に読んだ自己啓発書で印象に残っている本があります。確か、その本は営業についてのノウハ ウ書であったように記憶しています。
 その本には次のようなことが書いてありました。
 根性論を基礎にしたような本でしたが、「とにかく足を使うことが大切」と書いてありました。成功者の話と して、
「1日100軒の家を歩いて1件の契約も取れなかったなら、あと10軒歩け! もしかしたら101軒目の家で契約 が取れるかもしれない!」
 と叱咤激励する内容でした。つまり、営業には「あきらめない根性が大切」といった主張です。しかし、後 年、こうしたノウハウ書は「ホンモノ書ではない」と感じるようになりました。なぜなら、この本の主張は、実際 の現場ではなんの役にも立たないからです。単に、根性を鼓舞するような精神論調のノウハウ書はホンモ ノ書でないことが大半です。基本的に、このように根性論を展開する自己啓発書は、経営者にとって都合の よいことを書く傾向が強く、実際に現場で働いている人の参考になることは少ないようです。
 本当に、読者に参考になるのは「101軒目を歩く根性論」ではなく「100軒の家の効率的な歩き方や探し 方」です。そうした具体的な例を紹介して初めてノウハウ書としてまたは自己啓発書としての価値がありま す。
 「時間菅理術」についても同様です。抽象的なことを書いて言葉を濁しているノウハウ書はモノマネ書と言 えるものです。具体的な例を示して初めて真の意味でのノウハウ書または自己啓発書と言えます。
 しかし、ここで問題が生じます。それは、具体的な例は常に変化することです。時代が変化し進歩するの ですから、役に立つ具体的な例も合わせて変化し進歩しなければなりません。それでなければ、本当に役 に立つノウハウ書にはなり得ません。
 こうしたことからもわかるように、ノウハウ書および自己啓発書は時代遅れになりやすいという欠点があり ます。陳腐化しやすいのです。そして、このことはノウハウ書および自己啓発書といった類のビジネス書が 枝葉末節なことに過ぎないことを示しています。
 ここまで書けばもうおわかりでしょう。ノウハウ書は本の帯に書いてあるほど意義がある内容のことは書 いてありません。
 例えば、時間菅理術についていうならば、大げさに「菅理術」などと大上段に構えるものではなく、それぞ れ個人が「時間を有効に使うこと」を心がけて自ら考えれば済むことです。なにも他人から指摘されることで はなく、ましてや本などで教えられるべきものでもなく、自分で考えればよいことです。小学生ではないので すから、その程度の工夫は誰にでもできるはずです。もし、「時間菅理術」のような「指図するテキスト」を求 める必要を感じるビジネスマンがいたなら、その方は「菅理術」以前に、「心構え」を今一度勉強する必要が あります。真面目に仕事に取り組み、必死に働く意志のあるビジネスマンなら、わざわざ「時間菅理術」の 本など読む必要はありません。それこそ「時間の無駄」となります。
 因みに、ビジネス書には「~しなさい」といった「命令調」の題名が多いのですが、その理由はそうした題 名の本が売れるからです。しかし、こうした本を喜んで購入する読者は「指示待ち人間」が多いように想像し ています。もちろん、このような「自分で考えられないビジネスマン」は「心構え」の本から最初に読むべき種 類のビジネスマンです。
 真面目で積極的に働いているビジネスマンにはノウハウ書は無用ですが、それでも幾つかは読みたいと いう人もいるでしょう。そのような方のために、ノウハウ書における「ホンモノ書」と「モノマネ書」の境目とな る目安を紹介したいと思います。
 まず、本の帯に「続」とか「第2弾」といった語句が載っているものは「ホンモノ書」である可能性は低いと言 えます。「続」とか「第2弾」と書いてあるのですから、それ以前に書かれた本があることになります。こういう ケースでは、大体において「二匹目のドジョウを狙った」出版の可能性が高いのが普通です。前章で書きま した「二匹目のドジョウ」です。「最初に売れた本」で名前が知られた著者の知名度を当て込んで出版したに 過ぎません。そして「続」「第2弾」の本は内容が薄いことが多いのが一般的です。せっかく読むのなら「最初 の本」を読んだほうが役に立ち中身が濃いことは間違いありません。
 2番目として、題名に「すぐに」とか「簡単に」などという、あたかもなんの苦労もせずに身につくような表現 を強調しているビジネス書は要注意です。仮にも、ビジネスマンのスキルを上達させるものであるなら、ある 程度苦労して身につけるのが本当のスキルです。「簡単に」できる自己啓発は「ほとんど役に立たない」と 考えたほうが賢明です。
 3番目として、著者の肩書きや経歴に注意を払いましょう。やはり、読者から信頼感を得るには「社会的地 位の高い肩書き」は効果を発揮します。ですから、出版社は著者に肩書きの高さを求めます。そのため、 ほとんど実態のない団体や組織を設立または活用してその「代表」や「会長」を名乗ったりしている場合も あります。本当に役立つノウハウ書に出会いたいなら、著者の肩書きにある団体や組織の実態も確認する 必要があります。
 4番目に、「実務経験の有無」を確認することを忘れてはいけません。ノウハウ書は既に世に出ているノウ ハウ書をかき集めて混ぜ合わせて要領よく整えて、それなりの本にすることが可能です。いわゆる「頭のい い人」であるなら、そうした作業は朝飯前にできてしまいます。しかも、そのようにして作られた本がそれなり に「見栄えのよい本」になっているのも事実です。ですが、あくまで知識の寄せ集めに過ぎませんから、魂が 込められていません。やはり、読むなら「魂」の入ったノウハウ書を手にしたいものです。それを見ぬく参考 になるのが、著者の略歴です。著者略歴における実務経験の有無を参考にするのが手っ取り早い確認方 法です。経歴にコンサルタントや○○士などとしか表記されていなかったなら注意が必要です。実務経験の ない著者のノウハウ書ほど机上の空論である可能性が高い本はありません。
 最後に、普通の人でも実践できる内容であることは大切です。特別に能力が高い人だけに当てはまる、 またはエリートだけが実践できるノウハウではなんの意味もありません。汎用性の有無は大切です。人間 は、能力や性格など人によって様々です。そうした現実を踏まえますと、ノウハウ書に書いてある内容が自 分に適しているかどうかは、とても大切です。自分に適していないノウハウではなんの効果も得られませ ん。自分を客観視し、自分に適しているノウハウ書を読むことが最も効果のあるノウハウ書の活かし方で す。

 次章では経営学書について述べます。
<自己啓発書>終わり

はじめに> <自己啓発書> <経営学書> <自伝書
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